"Fashion New Life"を通じて、未来に種まき
この20年以上、百貨店業界は苦戦が続く状況が続いています。接客販売重視の考えから、弊社はEコマースの取り組みも十分とはいえませんでした。近年、百貨店ビジネスに活気を与えてくれていたインバウンドも、2020年2月から感染拡大が始まった新型コロナウイルスの影響により、一気にしぼんでしまいました。しかし、このコロナをきっかけに消費の構造が大きく変わりました。サブスク型のビジネスが盛んになり、さらにサステナビリティへの意識の高まりから、「買う」より「借りる」、レンタル消費スタイルに注目が集まるようになりました。
この消費構造の変化に対し「今度こそ乗り遅れないように」という意識が社内でも強くなり、サブスク型ファッションレンタルサービス「AnotherADdress」を、新規事業として立ち上げることにしました。
この「AnotherADdress」には「サステナブルなビジネスモデル」というテーマがありますが、もうひとつ"Fashion New Life"というコンセプトも持たせています。
百貨店がまだ元気だったころ、ファッションは「元気を与えてくれるもの、力をくれるもの」でした。その体験を「AnotherADdress」を通してもう一度、楽しんでもらえたらと思っています。
当社の百貨店事業の売上は1兆円レベルの規模があります。それに対して「AnotherADdress」はせいぜい数億円の規模に過ぎませんが、未来への種まきが始まったと感じています。
事業の立ち上がりについて、どのように考えていますか。
当初の事業計画を上回り幸先の良いスタートをきりました。この1年で、約4万着のレンタルがあります。1着あたり平均5万円の婦人服ファッションですから、販売ベースで考えれば、これだけで約20億円分が動いたことになります。
それよりももっと大きいのが、「AnotherADdress」ではすべてのお客さまの行動がデータで取れることです。「何を見て、何を借りたか」や、製品に対する満足度のほかに、返却された製品からブランドごと、商品ごとの傷みやすさなどもわかります。売って終わっていたこれまでの百貨店ビジネスと違い、「生きたデータ」がどんどん蓄積できています。
協創のポイントは、共感と豊富な実績
今回の新規事業はかなりチャレンジングな立ち上げだったと思います。スタートにあたっての不安はありませんでしたか。
今回の事業は、これまでの売り切り型のビジネスと違って、百貨店での物販事業のノウハウだけでは形にできないと考えていました。とくに物流事業に知見のある方の考えを伺いたいと思っていました。
偶然にもスタートアップ事業支援の場で日立物流さんと出会い、新規事業としてレンタルやサブスクリプションビジネス支援の物流サービスを始められることを知りました。物流業界のリーダーとしてさまざまなことにチャレンジし、進化させていく姿勢に、強く興味を持ちました。
このビジネスを立ち上げるにあたり、パートナー選びで私たちが一番大切にしていたのは、「AnotherADdress」への思いやコンセプトに共感してもらえるかという点と、その領域でのこれまでの豊富な実績です。日立物流さんは、まさにぴったりのパートナーでした。
ですから、スタートにあたっての不安というより、「これ以外に正解はない」という思いで前に進んでいきました。
時代の変化、ニーズの変化に合わせて進化を続ける
レンタル、サブスク、シェアリング支援に特化したパッケージ型WMS「レコビス」を導入されました。実際に利用されてみて、いかがでしょうか。
レンタルサービスの提供に不可欠な個品管理の仕組みを自分たちで構築するのは現実的ではなかったし、立ち上げ費用はできるだけ抑えたいという気持ちでしたから、「レコビス」を提案いただいたときには「これしかない」という思いになりました。実際、月額固定の料金でスタートアップには導入しやすかった。
加えて、今の「AnotherADdress」はかなりフレキシブルな構成になっています。われわれのようなベンチャービジネスとしては、連携する物流システムもフレキシブルな設計の方が、運用面でも安心できます。お客さまのニーズやテクノロジーの変化に合わせて、われわれも進化していきたいと考えています。
ファッションレンタルのサブスクビジネスに求められる物流は、通常の販売事業におけるものとは違うと思います。今回、どのような点がポイントになりましたか。
サステナブルなビジネスということを理解し、大事にしてくれることが重要でした。「AnotherADdress」では「服の寿命をのばす」ことが第一になりますが、荷物の扱い方、働き方を見れば、それが可能かどうかすぐわかります。この点でも、日立物流の皆さんは「まじめ、しっかり、安心感」という印象で、プラスαを期待できる会社だと思いました。
大きな看板を背負い、スタートアップを成長させる
「AnotherADdress」が立ち上がって以降、新たな気づき、発見はありましたか。
事業の成長とともにやりたいことが増えていく状況です。毎週、日立物流さんのメンバーを含めて、ミーティングを行っていますが、すべての業務において、日々、アップデートするようにしています。サブスクビジネスのパートナーとして真剣に議論を重ねながら、先へ先へと進めているので、足腰が鍛えられているという印象です。
大丸松坂屋という大きな看板を背負っていますが、今やっていることはスタートアップのビジネスです。メンバー1人でも意識が低下すると、成長にブレーキがかかってしまいますから、メンバーの意識を高く保ち全員を巻き込むかたちで、日々、取り組んでいます。
「AnotherADdress」の今後の目標を伺えますか。
今後5年のうちに、年間売上高50~60億円、年間で扱うファッション数20万着をめざします。その規模になると日本一のファッションサブスクビジネスになります。
もちろんここで終わりではなく、さらなる高みの一歩として、ファッションのサブスク世界一の米国企業に負けないリードタイム(レンタル商品の返却から、次のレンタルを可能にするまでの時間)を実現したい。そのためには、これまで以上に日立物流さんとの協創が重要になります。一緒に高みをめざしましょう。よろしくお願いします。
※所属部署、役職等は取材時のものになります。