「サプライチェーンの最適化」に対する要求が高まっている背景
「『これまでの人気商品が売れなくなり、逆に以前はそれほど人気のなかった商品が売れるようになった』、お客さまからこのような声をよく聞くようになりました」と内海氏は語る。その影響は、サプライチェーンマネジメントにも及んでいる。
「これまでの様には需要予測が当たらないこともあり、需要と供給のバランスが崩れてしまっています。そのため、機会損失を避けるために在庫を積み増しし、結果、在庫金額が増えてしまうという悪循環に陥っています」(内海氏)
従来のサプライチェーンマネジメントが通用しなくなってきているのだ。
今野氏は、「だからこそ、物流でレスポンス良く対応することが必要なのですが」と前置きした上で、このように指摘する。
「サプライチェーン部門と、物流部門がうまく連携できていないケースが多く見受けられます。物流の全容をつかめていないから、打つべき対策が分からないし、取れません」
本来、今野氏が指摘するような状況であれば、真に最適なサプライチェーン構築は実現できないはずだが、これまではなんとかなってきたのだろう。
しかし、新型コロナウイルスが私たちの生活を大きく変貌させたことで、これまでのサプライチェーンマネジメントにおける課題が顕在化した。
「家計調査」(総務省)によれば、新型コロナウイルスは、一般消費者の消費行動にも大きな変化を及ぼした。新型コロナウイルスの影響がなかった2019年と2021年を比較すると、例えば冷凍調理食品の消費は26.9%、チューハイ・カクテルの消費は39.4%増加したが、一方で婦人服の消費は37.1%、口紅の消費は51.2%減少した。消費が増えたメーカーも、減ったメーカーも、これだけの変化に対応するのは困難を伴うだろう。
今求められているのは、社会情勢の大きな変化にも耐えうる、サプライチェーンの強靭化なのだ。
「サプライチェーンの課題に正解はありません。算数の公式のように、正解が一意に決まるものではなく、社会情勢、市場の状況変化に加え、それぞれのお客さまの意思入れによって、正解は刻一刻と変化するものだからです」(今野氏)
この変化の多い時代に求められるサプライチェーンのあるべき姿を社会に提供するため、日立物流と日立ソリューションズ東日本は協創を行うのだ。
日立物流と日立ソリューションズ東日本が協創する理由
「道路貨物輸送サービス価格は、2010年代後半にバブル期(1990年の規制緩和以前)の水準を超え、過去最高(物流コストインフレ)」──これは、2021年10月に開催された、「第1回 フィジカルインターネット実現会議」(経済産業省および国土交通省)で指摘された課題である。
物流コスト上昇の原因の一つは、トラックドライバー、倉庫作業員などの人手不足である。少子高齢化による人口減少が進む日本において、人手不足の解消は期待しにくい。物流業に限らず、人の労働力に頼った産業は、大きな転換を求められている。
中期的な見通しで言えば、フィジカルインターネット、無人運転トラック、倉庫ロボットの普及といったテクノロジーの進化と普及が、物流コストインフレの歯止めとして期待されている。
しかし、メーカーや小売、卸などの荷主は、今まさにこの瞬間、物流コストインフレに対する対策を求めている。テクノロジーの進化と普及を待っていては、ゆでガエルになってしまう。
だからこそ、今あるリソースを効率よく活用し、より高度なサプライチェーンマネジメントを実現できるソリューションが注目されている。
内海氏は、このように説明する。
「物流コストを抑えるための対策を、物流だけで考えるのは無理があります。また、『製品が完成してから考える』のでは遅すぎます。今求められているのは、デリバリーから需要・供給計画を立案できるソリューションです。その観点で言えば、日立ソリューションズ東日本のソフトでは戦略・計画のプロセスを担うことはできるのですが、『運ぶ』『保管する』といった実業のプロセスを提供することができませんでした」
一方、今野氏は、日立物流の立場をこのように説明する。
「特に最近、在庫量や物流コストなどのコントロールに課題を抱えているお客さまが顕著に増えていると感じています。日立物流として、このような課題の解決に、どのようにして貢献できるか?日立物流は、実業のプロセスをお手伝いすることは得意ですが、戦略・計画の部分に関してはソリューションが欠けていました」
日立物流と日立ソリューションズ東日本は、それぞれサプライチェーンの最適化を実現する上で、お互いに欠けていたパズルのピースを補完する関係にあったのだ。
なお、今回ご紹介している取り組みにおいては、必ずしも物流の実業ありきを前提とした取り組みではないことは付け加えておこう。「現在お付き合いのある運送会社、倉庫会社があるのだけれども...」という企業にも、後述するソリューションだけをご提供することが可能である。
日立物流×日立ソリューションズ東日本の協創が生み出す価値
「変化に耐えうる強靭なサプライチェーンを実現するためには、極論、日々サプライチェーンを監視・評価し続けなくてはなりません」と内海氏は説明する。
「在庫があふれそうだ」、もしくは「在庫が足りない」といった問題が発生した際には、即座に対策を講じなければならない。当たり前だが、月末に「今月は在庫が不足していました」と報告を受けたところで遅すぎる。
倉庫業務で言えば、WMS「ONEsLOGI」(日立物流ソフトウェア)が現場を管理し、「SCDOS」(日立物流)が、在庫管理の状況を可視化し、問題が生じた場合にはアラートを発するなど実運用での課題を解決する。
計画系の課題は日立ソリューションズ東日本のソリューション群が担う。WMSから連携されたデータをPSI監視・分析を行う「SynCAS PSI Visualizer」を使って在庫トレンドを把握し、需要予測・発注計画ソリューション「SynCAS」、需要予測支援システム「ForecastPRO」を駆使して、生産・販売・在庫計画を修正し、課題を解決していく。
一般論として、遠くにあるものを見ようとすればするほど、あらゆる予測値は精度が悪くなる。状況は日々変わるからだ。日立物流と日立ソリューションズ東日本、それぞれのソリューションを組み合わせることで、内海氏の言う「サプライチェーンを監視・評価し続ける」体制が実現する。
もう一つ、2社の協創が持つ魅力は、コスト感とスピード感にある。
「より大規模で機能が豊富なサプライチェーン最適化ソリューションは世の中にあります。しかし、こういったソリューションは、導入前のコンサルティングや事前調査を含め、高額な投資が必要となり、導入から運用までの時間も長くなりがちです。対して私たちのソリューションは汎用的な仕組みを備えお客さまのニーズに合わせて機能の選択が可能で、よりリーズナブルかつスピーディーに導入が可能です」(内海氏)
「サプライチェーンマネジメントがドラマだとすると、物流はクライマックスの後半からエンドロールに位置づけられると思います」──今野氏の言葉は、詩的で、かつ正鵠を射ている。
物流は、サプライチェーンの一部だ。
したがって、物流の最適化は部分最適化にしかならない。全体最適化を目指し、より良いドラマを作り上げようとすれば、サプライチェーン全体に目を向けなければならない。だがしかし、このことを知りながらも、どうしたら良いのか、手を付けかねていた企業も少なくないはずだ。
日立物流と日立ソリューションズ東日本の協創は、このミッシングリンクを埋める役割を果たす。
二社が紡ぐドラマは、まだ始まったばかりだ。
今後の動向を見逃さず、注目して欲しい。
※PSI
Production(生産)/Purchase(調達), Sales(販売), Inventory(在庫)の頭文字
撮影 寺井悠
関連リンク:株式会社日立ソリューションズ東日本
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執筆・インタビュー 坂田良平 プロフィール
Pavism代表。物流ジャーナリスト。
「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。筋トレ、自転車、オリンピックから、人材活用、物流、DXまで、幅広いテーマで執筆活動を行っている。
連載『日本の物流現場から』(ビジネス+IT)他、Merkmal、LOGISTICS TODAYなど、物流メディアでの執筆多数。
※所属部署、役職等は取材時のものになります。