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(後編)日本の産業をアップデートするサプライチェーン教育

SCM競技会世界大会初出場の日立物流チームが、なぜ5位入賞できたのか

日本予選で2位になり、世界大会に進出した日立物流。彼らを初出場5位入賞に導いた戦略とは。戦いの中で見えてきた、物流業界、日本の産業をアップデートする人財教育の重要性について聞いた。

前編はこちらからご覧いただけます。
サプライチェーン経営を疑似体験するSCMゲームで世界に挑戦する

販売戦略とサプライチェーンをフィットさせる

ゲームの勘所は、ジュースをどう売るかという販売戦略とサプライチェーンをいかにフィットさせるかということではないかと話すのは、製造・物流を担当したDX・イノベーション部の藤波さん。

「普段の業務では、あるお客さまは各国で生産したものをその国の中で販売したい、別のお客さまは国内で生産して海外で売りたい。などとお客さまごとに異なった販売戦略があって、それらに合わせて用意する設備や倉庫などを考えていくというコンサルティングを行っています。」

この業務での経験はゲーム内でも生かされました。SCMの田中さんが全体の戦略を決め、営業担当の延さんが販売量と品質を決定。それに続いて、製造・物流担当の藤波さんが工場のライン数や作業員のシフトなどを決定。調達担当の天春さんが原料の仕入れ先や購入単位などを決定して、全体を最適化するというのが基本の流れです。

ただし、ゲームで与えられたビジネス条件によっては、いつも同じ物流を使うのではなく、販売戦略に合わせて柔軟に変えて行く必要があります。そのフィットのさせ方が、ゲームの勘所であり、実際のビジネスでも重要なポイントになるのです。このような考え方が得られたのは、このゲームに参加した意義の一つだったと言います。

今回、チームで合意した販売戦略とサプライチェーンをフィットさせることで良い結果が出たことは、自信にもつながりました。

部分最適ではうまくいかないサプライチェーン

「面白いのは、このゲームの設定では例えば販売管理費をかければかけるほど売り上げが上がり、結果、ROIも良くなるんです」とサプライチェーン・ソリューション3部の延康裕さん。つまり、コストカットよりも売り上げを大きくする方がROIは上がるということです。

そういう部分は多少現実とは違いますが、それがゲーム世界のルールであり、それに気づくかどうかも、ゲームの成績に関わります。

戦いを振り返って、営業を担当した延さんは言います。

「私たちは、どうしても物流目線で見てコスト削減を主体に考えてしまいます。しかし、今回のゲームの場合、メーカーは売り上げを上げたい。販管費や物流コストに多少無駄があったとしても、モノが売れて利益が上がる方が良いという結果でした。ゲームを通じて、自分がいかに物流という小さな視点だけでビジネスを見ていたかということが分かったのが、最大の成果だったと思います。」

この意見は、物流会社としてチーム全体が共有したことでもあり、在庫削減・コスト削減などの物流部門の部分最適化では、SCMは上手くいかない場合があることを、身に染みて学習できたと言います。

そして、SCMの全体最適化には、各部署が協力して、落とし所を決めること。そのためのコミュニケーションの重要性に気づけたことも、このゲームに参加した大きな収穫となりました。

部分最適が引き起こす要因の例

次世代のサプライチェーン人材で未来をアップデートする

これまでの座学を中心とした教育体系とOJTだけでは、SCM人財の育成に長い期間が必要でした。

リアルのビジネスでは、SCMの施策を決定し結果が出るまでに長い時間がかかりますが、ゲームであれば短期間で結果が出ます。ゲームを通じてチーム内の意見調整を踏まえた経営改善へ向けた意思決定の場数を踏むことによって実践力を養うことができます。

天春さんは振り返ります。「お客さまの立場で物流を考え、物流の先にある経営課題へアプローチするために必要なスキルとしてのSCM。だからこそ、次の世代の人たちも挑戦して、今回以上の結果をめざして欲しい。」

サプライチェーンは私達の暮らしを支える重要な社会インフラであり、SCMは企業の収益性を左右する重要な事業基盤として、注目されています。

そして、「IoT」「AI」「ロボティクス」「フィンテック」「シェアリングエコノミー」といった技術の進化や社会構造の変化に加え、デジタル化の進展により、サプライチェーンは日々進歩しています。

「SCM人財の育成」における一つの成功体験となった、今回のSCMゲームでの5位入賞。

最後に、今回のSCMゲームへの参加を企画した西川さんは、「この体験を推進力に、さらなるSCM人財育成の強化を図り、DX戦略のひとつである「SCDOS (Supply Chain Design & Optimization Services)」を通じて、お客さまのビジネスの成功に貢献し続けられる物流パートナーをめざしていきたい」と締めくくった。

※所属部署、役職等は取材時のものになります。