「LOGISTEED CAFÉ」で未来を語り合う
―まず、「LOGISTEED CAFÉ」を開設した経緯から教えてください。
後藤「LOGISTEED CAFÉ」は、2020年12月に日立物流本社内に開設した、お客さまやパートナー企業との協創のための施設です。コンセプトは、"日立物流の取り組みを発信し、お客さまやパートナー企業と物流を超えた未来を創る場所"です。
現在、物流業では異業種の参入や、労働力不足などさまざまな社会課題に直面しています。これまでの事業の延長では、持続的な成長は難しい状況といえます。当社は、B to Bの物流を受託するサードパーティーロジスティクス(3PL)を主力事業としていますが、このような先の見えにくい状況に不安を抱えているのは、お客さまやパートナー企業も同じではないでしょうか。
ならば、お客さまやパートナー企業と一緒になって課題を見つけ、どんな解決を図っていけるのかといったことをざっくばらんに語り合い、未来を創るイノベーションの種を生み出していきたい。「LOGISTEED CAFÉ」では、そのような協創活動を行い、発信することをめざしています。
アートをきっかけに多様な価値観を引き出す
―そのような「LOGISTEED CAFÉ」に、アート展示を発案した経緯を教えてください。
後藤私や佐々木は、「LOGISTEED CAFÉ」の構想から関わっているのですが、社内外の多くの方々の多様な意見を吸収すべく、ワークショップを何度も行ってコンセプトを固めていきました。そこで外部パートナーであるクリエイティブディレクターの方にファシリテートしていただき、社員自身の仕事観や創り上げたい日立物流の理想像、「LOGISTEED CAFÉ」のイメージに近いものを、数多くの絵や写真の中からピックアップし、それについて語り合うといった試みを行いました。すると、子どもの頃のことを自然に話し始めたり、仕事以外の趣味や家族のことを話したりと、社外の初対面の方でも価値観が共有できたり、気心が知れた社員同士でも普段は見えにくい内面や考え方を窺い知れる機会となりました。
企業同士の協創であっても、行うのは人同士です。他人が集まって「さあ、課題を出し合いましょう」と言っても、硬い雰囲気のままではうまく進めないでしょう。そこにアートという化学反応の仕掛けを介することで、このように打ち解けて話を進めやすくできる大きな効果があると実感できたのです。そこで、「LOGISTEED CAFÉ」にアートを取り入れ活用していくことになりました。
先行き不透明な時代、ビジネス界で注目されるアート思考
―ビジネスにおいて、アートが効果的に使えるのではないかという試みですね?
佐々木そのとおりです。数年前から日本のビジネスシーンでも"アート思考"が広まりはじめ、アートの役割が注目されてきています。先行き不透明な時代にあって、論理的思考だけで意思決定を行うことは難しく、感性や創造力とのバランスが大事であるといわれています。「LOGISTEED CAFÉ」がアートを取り上げた理由はそこにもあり、空間的にも創造力を刺激することを意図しています。
後藤プロジェクトメンバー同士が初対面の際、展示された作品の感想を言い合ってアイスブレイクしたり、メディアの取材を受ける際、作品をバックにして多くの方に興味を持っていただくきっかけにしたりと、いろいろな効用が考えられることもアート作品を展示しようとの推進力になりました。
「LOGISTEED CAFÉ」に対する共感が制作依頼のきっかけ
―神山さんに制作をお願いした経緯とは、どういったことでしょうか?
佐々木社内に、休日などにアート作品を鑑賞して感想を語り合うといった自主的な活動を行っているサークルがあります。「LOGISTEED CAFÉ」にも関わるそのメンバーたちが、たまたま「ART FACTORY 城南島」で制作活動を行っているアーティストのグループ展を見に行ったのです。神山さんはそこに出品されており、作風が「LOGISTEED CAFÉ」にとてもマッチすると感じたことがきっかけとなりました。色彩の豊かさやモチーフの面白さ、ダイナミックなそのタッチに、"物流"という、あまり取り上げられないテーマに対してどんな作品を描いていただけるかというワクワク感を検討チーム内で共有することができました。
後藤また、神山さんとお話しするととても柔らかい印象で、私たちが協創していくアーティストとしてとても組みやすいと感じたことも大きな要因です。実際に「LOGISTEED CAFÉ」へお越しいただいて施設をご紹介すると、施設の目的や私たちがやりたいことをよく理解してもらえたと感じ、さっそくこのプロジェクトを進めることになりました。
―神山さんは、そのオファーを受けた時にどう思われましたか?
神山とても嬉しかったです。まず、「LOGISTEED CAFÉ」をWebサイトで見て、物流のイノベーションを起こそうという施設と知り、そこに作品を展示するのは何か面白いことが起こりそう、といったワクワク感がありました。ぜひ一度詳しく話を聞きたいと、「LOGISTEED CAFÉ」にお邪魔しました。名称に"CAFÉ "が使われているのは、19世紀末~20世紀の芸術家たちが集まって語らいながら新たな表現を模索したパリのカフェのような施設になるように、との意図とうかがって、グッと距離が近づきましたね。私はカフェなどのお店の壁画をたくさん描いてきたので、好きな世界だと思えたのです。
タイトルは「LOGISTEED GARDEN FES~物流庭園祭~」
―どういったテーマの絵を描こうと考えましたか?
神山後藤さんや佐々木さんからは、「物流に対するイメージを、思ったままに作品にしてください」とオーダーをいただきました。そこで、"CAFÉ"のコンセプトをヒントに、「LOGISTEED GARDEN FES~物流庭園祭~」というタイトルを思いつきました。世の中、コロナで人に会いたくても会いにくい時期だったこともあり、「庭に集う」というテーマはサクッと浮かびましたね。
人が集まって新しい時代を語り合っているイメージ
―「LOGISTEED CAFÉ」のコンセプトに即したテーマですね。
神山ご提出したラフスケッチには、次のようなコメントを書きました。
「ハンドルは遊びがないとまっすぐに進まないように、アイデアはくつろいだ時に突然沸き起こることが多々あります。絵画で脳内の遊びに繋がるような物流庭園祭を展開したいと思います。
現在、コロナによって人が集うという行為が当たり前じゃない日々が続いていますが、カフェに集い語らった19世紀末~20世紀の芸術家が新しい革命的な表現を生んでいったように、自然と音楽の中で人が集まってくつろぎ語り合っているイメージを展開します」
―作品制作で配慮したことや、工夫したこととは?
神山展示スペースを調べて、絵は80㎝×80㎝のキャンバスを3つ並べることにしました。一続きの絵ですが、間隔を空けて展示することでより豊かな感じにしたかったからです。 「LOGISTEED CAFÉ」の内装は木の質感を意識していて、そんな空間に自然に馴染みつつも存在感を発揮できるような色彩や構図を意識しています。絵柄としては、ある程度抽象度を高くして、見る人に「これは何だろう?」とイマジネーションを刺激することを意図しています。
躍動感が生まれ、インタラクティブな協創空間に
―LOGISTEED CAFÉ に実物を展示した後の感想をお聞かせください。
後藤第一印象は、空間がパッと明るくなった印象で、空気までも変えたように思います。普段執務している場所からここに来ると、集中作業から新しい発想に必要な開放への気持ちの切り替えができますね。作品の持つパワーを感じます。
佐々木イエローやピンク、水色といった鮮やかな色彩はオフィスには少ないので、視覚的にも刺激がもらえますね。それと、人々が賑わう様子から音が聞こえてきそうな躍動感を覚えます。この場所では、静まり返った会議はしなくなりますね(笑)。まさしく私たちが狙っていた、インタラクティブな協創空間づくりに必要な要素を加えることができたと思います。
神山音が聞こえてきそうと言っていただきましたが、私の創作テーマが"Color Sounds"なので、感じていただけてとても嬉しいです。事前にここを下見して、背景にあるビルの間から光が差し込むようなイメージで描きました。実際に、背景のビルがグレーなので絵が映えていますし、ブラインドを下ろすとやはりグレーなので、よく映えていると思います。ブラインドの前に作品を設置するのは初めてですが、離れて見ていただくのにインパクトを加えようと、キャンバスは厚みのある特注品にして側面にも描きました。その絵を浮かせるように展示することで、躍動感のある空間になったと感じます。
日立物流の「未知に挑む。」を感じてほしい
―今回の作品展示プロジェクトに、どういった効用を期待していますか?
後藤当社ではビジネスコンセプトであるLOGISTEEDの活動の一環として、事業・業界を超えたさまざまなパートナー企業との協創を進めていますが、アーティストとの協創は初めてのことです。これまで目が向けられなかったことをこうして実現できたことで、特に未来を担う若い世代には会社は変化していると感じてほしいと思いますし、今後の可能性に期待してほしいですね。
佐々木対外的にも同様です。日立物流の新しい一面をお見せできると思います。オンラインと十分な感染対策をとったオフラインのハイブリッドで、お客さまやパートナー企業とともに、"庭園祭"のように賑わいが生まれるような活動をしていきたいと思っています。
後藤さらに、これをきっかけにして、例えば当社が運営する物流センターやトラックの中にアート作品が飾られて、人が働く空間に刺激や潤いを与えるようなことに広がっていけばいいとも思っています。本社以外の拠点にも、今回のアートを期間限定で展示することも考えていきたいです。
神山日常的な空間をアートで埋めると楽しく、豊かになりますものね。
「LOGISTEED CAFÉ」で新しいアイデアが生まれ、物流業界を超えた新しい可能性を生み出していく。
神山さんの作品は、その化学反応のきっかけとなり、協創活動の活性化を促すことでしょう。
お話をうかがった方のご紹介
●画家 神山麗子さん
Instagram:@reikokamiyama_colorsounds
ART FACTORY城南島
東京工芸大学芸術学部デザイン学科卒。「TSUTAYA」店内の手描きPOP制作からキャリアをスタートさせ、ライブペインティングに出合ったことを機に、飲食店をはじめとする店舗内の壁画をメインフィールドとする。
最近では大手町『Lady Blue』にて壁画を制作する。
その後、拠点を東京・大田区の「ART FACTORY 城南島」に置き制作活動に入る。作品のテーマは"Color Sounds - 色と音から受ける印象"。
人気アーティスト、大橋トリオの『fake book Ⅲ』にてCDジャケットのイラストも手がけている。
●株式会社日立物流 経営戦略本部 経営戦略部 部長補佐 後藤直子さん
●株式会社日立物流 経営戦略本部 経営戦略部 部長補佐 佐々木直美さん
※所属部署、役職等は取材時のものになります。